ヨーロピアン・ブラスバンド選手権2019

さて、4月26〜27日の二日間にかけて行われた、ヨーロピアン・ブラスバンド選手権2019のチャンピオンシップ・セクション。

 

課題曲は開催地スイスの作曲家、ルドヴィク・ノイローの「ディア・カッサンドラー」で、26日に行われました。

課題曲の演奏順は当日抽選が行われ、以下の通り。

1. ブリッグハウス(イングランド)
2. ルツェルン(スイス)
3. フローニンゲン(オランダ)
4. コンコード(デンマーク)
5. ゲータ(スウェーデン)
6. 3BA(ドイツ)
7. オーバーエステルライヒ(オーストリア)
8. ウィレブルック(ベルギー)
9. イタリアン(イタリア)
10. パリス(フランス)
11. エイカンゲル(ノルウェー)
12. コーリー
13. ヴァライシア(スイス・前年王者)

 

27日は自由曲で、各バンドが選択した曲は以下の通り。順番は自由曲演奏順の通り。

バンド 選択曲 作曲者
ヴァライシア・ブラスバンド ガラス サイモン・ドブソン
ブラスバンド・バーガームジーク・ルツェルン イーゴリ・ストラヴィンスキー通りのキング・コング ポール・マギー
3BAコンサート・バンド 南緯39度 ピーター・グレイアム
エイカンゲル・ブヨースヴィク・ムーシクラグ コンチェルト・グロッソ デレク・ブージョア
コンコード・ブラスバンド ヴィタ・エターナ・ヴァイリエーションズ アレクサンダー・コミタス
ブラスバンド・ウィレブルック コンチェルト・フォー・ブラスバンド ローランド・ツェントパリ
イタリアン・ブラスバンド エクストリーム・メイクオーヴァー ヨハン・デ=メイ
プロヴィンシャーレ・ブラスバンド・フローニンゲン オールド・リックス・ブレスド・アップ トースタイン・アーガード・ニールセン
ゲータ・ブラスバンド 南緯39度 ピーター・グレイアム
ブラスバンド・オーバーエシュテルライヒ いにしえの時代より ヤン・ヴァンデルロースト
パリス・ブラスバンド 天球の音楽 フィリップ・スパーク
コーリー・バンド エクスプローアズ・オン・ザ・ムーン ポール・ラファエル
ブリッグハウス&ラストリック ブリュッセルズ・レクイエム ベルト・アッペルモント

 

※コーリーの「エクスプローアズ・オン・ザ・ムーン」は世界初演。

 

2000年代のヨーロピアンは「自由曲は世界初演で当たり前」だったのですが、2010年代に入ってからは既存の曲を演奏する流れになり、今年も同じ。

ヨーロピアン史上初、イタリア勢がチャンピオンシップ・セクションに仲間入りし、史上最多の13バンドが参加。そのイタリアン・ブラスバンドは「エクストリーム・メイク=オーヴァー」で挑みます。

ブリッグハウスとヴァライシアは見事に演奏順トップとラストの入れ替わり。ブリッグハウスは大会最初の音を出した次の日、大会最後の音を奏でます。

 

課題曲(100点満点)と自由曲(100点満点)の計200点満点。点数は全て最後の結果発表の時にまとめて発表されますので、1日目の課題曲が終わったからと言って点数は最後までわかりません。

 

さて、ヨーロピアン2019、今年はどこがトロフィーを掲げるのか、結果はこちら!

 

順位 バンド 課題曲 自由曲 合計点数
1 コーリー・バンド ウェールズ 95 98 193
2 パリス・ブラスバンド フランス 96 96 192
3 エイカンゲル・ブヨースヴィク・ムーシクラグ ノルウェー 98 91 189
4 ブラスバンド・バーガームジーク・ルツェルン スイス 91 97 188
5 ブラスバンド・ウィレブルック ベルギー 94 93 187
6 ヴァライシア・ブラスバンド スイス 92 94 186
7 3BAコンサート・バンド ドイツ 97 88 185
8 ブラスバンド・オーバーエシュテルライヒ オーストリア 93 92 185
9 ブリッグハウス&ラストリック イングランド 89 95 184
10 プロヴィンシャーレ・ブラスバンド・フローニンゲン オランダ 90 89 179
11 ゲータ・ブラスバンド スウェーデン 88 90 179
12 コンコード・ブラスバンド デンマーク 87 87 174
13 イタリアン・ブラスバンド イタリア 86 86 172

ベスト・ソロイスト賞 グレン・ヴァン・ルーイ(ヴァライシア・ブラスバンド)

 

 

コーリー奪還!

 

2016年以来のヨーロピアン王者。再びトロフィーをイギリス国内に持ち帰りる事になりました。

 

ブリッグハウスは課題曲の順番が全てだった。運が悪かった。

エイカンゲルは課題曲、自由曲ともに完璧な出来で、4barsrest.comを始め多数の人が優勝を予測していましたが…。自由曲がいわゆる「古典曲」を選択したのが原因かはわかりませんが、自由曲8位で総合3位。「3位、エイカンゲル」の結果が発表された時、会場は歓喜の声は一切無くざわめきが続いたのが印象的でした。

いくら出来が完璧でも、選択する曲によって点数が大きく上下するのがコンテストです。それはどのジャンルの音楽でも同じでしょう。

 

そしてそして今回のサプライズ!パリス・ブラスバンド2位!

つい二週間前にフランス・ナショナルズを戦って優勝を逃したパリスは来年のヨーロピアンには出場できませんが、ここでフランス勢史上最高順位!

「2位、パリス・ブラスバンド!」と読み上げられた瞬間の歓喜の声と、バンド関係者の天高くあげた拳。

またこれでヨーロピアンの勢力図が塗り替えられそうです。

 

ここからは個人的な見解なのですが、このパリス・ブラスバンドや、オーストリアのオーバーエステルライヒもそうなんですが、サウンドがイギリス勢とは大きく違います。

イギリス勢は「個の力が引っ張り、周りがそれについていくサウンド」。プリンシパルやソロ・ポジションの奏者たちがしっかりと音を提示し、周りはそれに合わせる。プリンシパル達が圧倒的な技術はもちろん、自分の音をバンドに提示できることが絶対条件。

逆に言えばプリンシパル達の個の力が足りていないと周りは迷走し、まとまらないまま演奏本番を迎える。

まぁブリッグハウスのデイヴィッド・キングみたいに「指揮者が全てを提示する」という例外もあるけど。

 

それに対してパリスやオーバーエステルライヒの音は、「奏者の主従関係があまり無く、どこかの楽器が尖ることなくまとまるサウンド」。雑にまとめてしまえば「オーケストラタイプ」。

圧倒的な個の力は無いけど、ブラスバンドをよく知る指揮者がサウンドバランスを奏者に落とし込み、バンド全体で響くタイプ。

こういうタイプは指揮者が何年か、場合によっては何十年か時間をかけてサウンドを作っていくのが多い。

 

どちらが良いというわけではなく好みの問題ではあるのですが、個人的なことを言ってしまえば、私はこのパリスやオーバーエステルライヒの音の方が好きです。

10年前くらいは「イギリスのブラスバンドの真似事」、悪い言い方だと「イギリス勢の劣化版」が多かったヨーロピアンでしたが、最近は各国の色が出てきて、サウンドの変化も出てきたように感じます。